「ココ・アヴァン・シャネル」を試写会で見て、気が向いたのでメモ。
avantは、英語で言うbefore。
Cocoというあだ名で呼ばれていたシャネルが、有名デザイナーになるまでを
Audrey Tautou主演で描いたフィルムです。
まだ見ていない方は、続きを読まない方がいいかもしれません。
淡泊な伝記映画?というのが感想です。
シャネルの完璧主義、斬新な美意識や考え方、独特の魅力、感情にさほど焦点を当てるでもなく、
周りに賞賛されていく課程を印象づけるわけでもなく、かといって静謐とか神秘的なわけでもなく、
淡々と伝記的事実を描いている印象を受けました。
シャネルが若い頃のイヴ・サンローランと対談するフィルムを見て、
ドライな落ち着きと大胆不敵さのある、おもしろい女性だと感じました。
個性的で、年に関係なく恋人を持ち、いつまでも若々しく、
80代の高齢で亡くなる直前まで創作を続けた人物ですから、
映画で描くなら、遊び心たっぷりのいきいきしたシーンを入れたくなりそうですが、
ANNE FONTAINE監督はぐっとこらえたのでしょうか。我慢強い
カミーユ・クローデル、ロートレック、モディリアーニ、レンブラント、シェイクスピア、モーツァルトなどなど、芸術家を描いた映画はたくさんありますが、見終わった後無性に
何か作ったり楽器を弾いたりしたくなることってありませんか。
食べ物の映像を見て、素直に食欲が刺激されるのと同じで。
今回見た映画にはそういう刺激もなく、感情移入の余地もあまりない気がしました。
よく言えば、誇張がなく、抑制が効いています。
様々な生地を広げたり並べたり切ったり縫ったりする課程をいきいきとテンポよく描いた、
ワクワクするようなシーンがあるかなと想像したりしていたのですが、
このフィルムにそういう遊びはあまりなく、ストイックな印象でした。
衣装がみどころのひとつであるはずですが、シャネルが当時のモードを滑稽だと否定している設定上、当時の周りの人の衣装は色あせて見えてしまいます。
シャネルが若い頃から自作して着ている服についても、周りに強いインパクトを与えている描写がほとんどないので、当時の人々にどう捉えられていたのか今ひとつ曖昧でした。
初期の頃、常識的な愛人に否定されたり、彼女が作った帽子が著名人に気に入られるというエピソードはありますが、
当時のモードに関する知識がないと、彼女の服が斬新だということすら分からない可能性もありそうです。
それを補う説明目的というわけじゃないかもしれませんが、劇場に「映画を見る前に知りたい!ココシャネルのすべて」という、数枚綴りの無料パンフが置いてありました。親切なフォローです。
シャネルを演じたAudrey Tautouは、芯が強く知的でドライな役に徹しているせいか、乾燥して疲れた感じに見え、他の作品でのような魅力は感じませんでした。
そういえば今年の初夏、彼女が主演し、ジャン・ジュネが監督したChanel No5の広告が、シャネル公式サイトで公開されましたね。エレガントで官能的な上、遊び心も感じさせるフィルムで、Audreyも同監督の映画『アメリ』出演時のように魅力的でした。
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