2017年にフランスのニュースで見て気になっていたAI(人工知能)搭載の居眠り運転防止メガネが、2018年5月販売開始になって再びニュースで取り上げられていました。
ドライバーのみならず多くの人を救うことになるかもしれないこのフランス発の未来メガネについて詳しくまとめ、その他の居眠り運転対策についてもメモします。
どういうわけか眠気を誘う、子守唄のように心地いい声の先生の授業中に使ってみたかったなと思ったりしながら
運転の最大の敵は眠気
フランスの高速道路の死亡事故の原因は、スピード違反?飲酒運転?薬物使用運転?よそ見?
どれも正解ですが、ASFAの2017年7月の資料 BILAN SÉCURITÉ ANNUEL によると、原因の第一位は居眠り運転で、2015年には24%、2016年には27%と、大部分を占めています。
特に、夜〜明け方と、昼食後の時間帯の、居眠り運転による致死的事故の割合は、40%にも上ります。
フランスでは(昔よりは減ったようですが)ランチもワインを飲みながらゆっくりたっぷりとる人が結構いますし、ランチ後、お腹いっぱいで眠いまま運転する人も少なくないでしょう。
ニース発 学習する未来眼鏡
眠気が大きくなってから目を覚ますのは大変。居眠りしているのに自覚がない人もいるそうです。
そんな問題を、早い段階で眠気を検知することで解決してくれるのが、このインテリジェント&コネクテッド・グラスです。
France2 ニュース https://youtu.be/Nq0I59GMSQ0 より
老舗メガネ会社Atolの社長だった Philippe PEYRARDさんが、2016年に南仏のNice(ニース)で、Ellcie Healthy(エルシー・ヘルシー、エルシーエルシー)というスタートアップ企業を立ち上げ、2年かけて開発した製品で、
ご本人自らあちこちの番組に出演し、時にデモンストレーションしながら解説しています。
メガネフレームのフロントとアームに組み込まれた15個ほどのセンサーが、ユーザーの状態や環境について見張ります。その情報をBluetoothでスマートフォンなどに送り、疲労・眠気が感知されたらアラートを出す、というのが基本的な機能です。
まず自分のスマフォとメガネをあらかじめペアリングしておき、運転時にアプリを起動しておく必要があります。
ウェアラブルデバイスは、目立つデザインで選べないものが多めというイメージを抱いていましたが、このメガネは、リリース時からすでに何種類かのモデルが用意されており、好きなデザインのフレームを選べて、度つきレンズも入れられます。
しかも、発明品的ガジェットのイメージと違い、一見普通のメガネに見えるようなシンプルなデザインで、フランス製。
(フランスでの「フランス製」は、日本での「日本製」と同じく、上質・高級・技術が高い・信頼できる…などのイメージがあります)
重さは大体30g以下。センサーがついているのに、普通のメガネと同じくらいです。
美しさとつけ心地にこだわり、デザインが選べるあたり、さすがメガネ業界の方が作った製品だと思います。
充電器込みのメガネフレーム価格は、289€(3-4万円程度)で、フランスでは保険適用内。
バッテリーは一日持つそう。
脳に電磁波とかの悪影響はないの?と思う人のために、⽐吸収率(SAR 体が電波を吸収する率、仏語はDAS)についてもサイトに書いてあり、メガネを丸1日着用してもスマフォ通話5秒以下程度と、わずかだそうです。
眠気の判定基準と、アラート方法
ユーザーが疲れてきた・眠そうだと判断する条件は、
- まばたきの回数が増加する
- まぶたを閉じている時間が微妙に長くなる
- あくびする
- 目をパッと見開く
- 首が下を向く(ウトウト、コックリ、カクン)
など。一人黙々と運転する高速道路や、渋滞中の道路では特に役立ちそうです。
後述しますが、機械が学習するので、メガネの判定精度は、使えば使うほど上がっていきます。
眠そうだと感知された場合のアラート方法は、いろいろ用意されています。
France2 ニュース «Somnolence au volant : des objets qui vous réveillent»より
- メガネのサイドについたLEDランプが、初期の眠気で青く点滅。危険レベルになると、赤いランプと、ピーという音で起こす
- 眠そうだとアプリ画面で危険度メーターが上がり、危険だとスマホから文字アラート・音・音声メッセージが出る(音OFF設定あり)。
- 危険レベルだと、別の場所にいる人(家族、友達、保険会社・アシスタンス会社など)に向けて、居眠り注意報的な通知を、SMSなどで自動送信する
居眠り防止めがねと聞いた時は、デバイスとスマホで完結する光や音や振動などによる方法を想像しましたが、それに加えて、
人に起こしてもらうというアナログな方法を取り入れているあたり、柔軟で確実です。
アラートを受け取った人から電話がかかってきて会話することで目が覚めて、次の休憩所までたどり着けるというシナリオが想定されているようです。
話せば目が覚めやすいですし、配送会社などで使えば、夜間に長距離を移動するドライバーなどを守れそうですね。
学んで進化するメガネ
このメガネフレームには、人工知能(AI)が搭載されており、
個々のユーザーの(顔まわりや温度などの環境についての)情報を機械が学習し、アルゴリズムが修正されていきます。
また、クラウドに集められたデータによっても、眠気判定の正確さが高まっていきます。
もし最初の頃、眠くないのに眠気大と間違った判定されることがあったとしても、
機械が学んで成長していき、判定が的確になるわけです。
さらに、メガネがスマホの近くにある時にソフトウェアが自動アップデートされるため、後から追加された最新機能も利用できるというのも、いいですね。
便利機能もあるメガネ用アプリ
メガネと組み合わせて使うAndroid/iPhoneアプリ «Driver by Ellcie Healthy» も、シンプルで見やすいデザインです。
アプリの出発ボタンを押すことで、メガネが居眠り監視・運転ログの記録をスタートします。それで出てくるのが、左画像(危険度メーター画面)です。
画面下部の「この危険度判定は、あなたの感覚と一致していますか?」ボタンでフィードバックすると、機械の精度が上がる助けになります。
右の画像は、何時から何時まで、どのレベルの眠気で走ったかがグラフ化された運転履歴。自分の眠気の傾向を把握したい人にも、ライフログが好きな人にも良さそうです。
このアプリの情報だけでも役立ちそうですが、ゲートウェイを介して詳細データをお医者さんなどに向けて送ることで、治療などの役に立てることも可能なようです。
紛失した時のための便利な機能もついていて、アプリで位置情報を調べられるだけでなく、メガネから音と光が出るので、家の中でのプチ紛失にも役立ちます。他の持ち物にもついていてほしいくらいです。
「眼鏡どこいった!?」とアプリで呼んだら、自分のおでこの上で音が鳴った…とかいう場面も思い浮かびます
その他の居眠り運転対策
上でご紹介した France2 ニュース «Somnolence au volant : des objets qui vous réveillent»では、このメガネの他にも、指にはめるガジェットと、シトロエンの車の機能も紹介されていました。
リング系デバイスは、「脳の活動が鈍ると肌表面を流れる電流量が減る」というのを利用して、指表面の電流が減ったら振動でお知らせしてくれるというものだそうです(Amazon日本でも輸入販売されているようです)。リラックスしてボーッとしたらアラートが作動しそうな気もしなくはありませんが、面白いですね。
ニュースで紹介された車に搭載されているのは、方向指示器を出さないで白線を越えたらお知らせサインが出る機能(ハイクラスの場合、軌道修正機能もあるらしい)。ふらつくほど眠い時に、小さなサインを見て目が覚めはしないでしょうが、すぐ車を止められる状況なら、休憩をとるきっかけになりそうです。
その他にも、ドライバーの頭が下がったらアラートを出す、耳にはめるタイプやメガネ型などの居眠り防止グッズが出ていますが、レビューを見ると、精度は高くなさそうです。低価格で、眠気の判断材料が頭の動きだけなので仕方ありません。
また、顔認識とAIによって眠気を察知してアラートを出してくれるカーナビのような機械 Toucango を、Innov + というスタートアップ企業が以前から作っているようです。
判断基準など、Ellcie Healthyメガネと共通点が多いように見えますが、一般向けに商品化されているのかはよく分かりません。
Ellcie Healthyは、各分野の技術者を結集して、製品・システム全てを2年で作り上げ、商品発売前から社長がせっせとニュースで自ら宣伝して知名度を上げている点も含めてすごいなぁと思わされます。
居眠り運転対策としてフランスでよく言われることは、
前日はよく寝ておき、乗る前は食事を軽めにし、薬の副作用をチェックし、アルコールやドラッグをとらないこと、できれば眠気が起きやすい夜中(2-5時)と、ランチ後(13−15時)を避けること、運転し出したら2時間に一度は休憩を取ること、などです。
エルシーメガネは、多くの人を救う未来道具
Ellcie Healthy社は、居眠り防止にとどまらず、転倒しやすい人や、発作のおそれのある高齢者などが倒れるのを予知・察知するために、2018年12月に向けてさらなる開発を続けています。
詳細はわかりませんが、倒れた後だけでなく、予測もできるとなれば、素早く適切に対処できる可能性が上がりそうです。
確かに、いろいろな病気の発作の予兆についてプログラムしておけば、ある程度予測可能な気がします。
メガネフレームでどこまで情報が読み取れるのか、興味深いです。
ブレスレット型デバイスと組み合わせて心拍数などをモニターしたら精度が上がりそうだと一瞬思いましたが、つけ忘れられたり、つけるのを嫌がられてしまうと意味がありません。
その点、メガネなら毎日かけてもらえそうなので現実的ですね。
充電したがらない人もいそうな気がするので、ズボラな人でもなんとなく置きたい気持ちにさせるような充電器になれば、遠くに住む家族の見守りグッズとしても役立ちそうだなと思います。
緊急時は、自動でナースコールや家族への通知がされるんでしょうね。
そうしたら、おじいちゃんが発作を起こしている時に家族が庭いじり中でしばらく気づかなかったなんてこともなくなりそうです。
アラートだけでなく、メガネが集めた普段の情報が、医療目的で役に立ちそうな予感もします。
Ellcie Healthy社の目的は、人の命を救うこと。多くの人を助ける未来道具を生み続けてくれそうです。
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